「頭のよさ」は遺伝子で決まる!?

「頭のよさ」は遺伝子で決まる!? (PHP新書)

「頭のよさ」は遺伝子で決まる!? (PHP新書)

(2007-09-19読了)

著者は神経生化学を専門としており,主にドーパミンの効用について研究しているらしい.そのせいか,ドーパミンが人体に与える影響という観点での説明が多かった.
文中,脳科学の基本的な内容が含まれているので良い復習になった.


DNAが直接タンパク質を生成せずに,RNAを生成してからRNAがタンパク質を生成する理由について,DNAから直接生成するとエラーが起きるので,不具合のあるRNAは破壊されるようにすることで,不良なタンパク質が生成されるのを防いでいるのではないか,という説明は面白かった(pp.137-138).ここ2-3年でわかったことらしい.


IQは生涯変わらないらしい.知らなかった.
IQで測定できる以下の4つの能力は,実は4つとも相関するらしい.つまり,言語能力の数値が非常に高くて,数学能力が著しく低い,ということはないらしい.著者が言うには現代のIQテストは,かなり洗練されていて,テストで測れる能力に関しては,かなり高い精度で測れるらしい.

  • 言語能力
  • 数学能力
  • 空間能力
  • すばやく処理する能力


一昨年あたりまで文化の日に放送されていた全国一斉IQテストのテレビ番組「テスト・ザ・ネイション」では,いつも言語能力が低い値を示していたような気がする.あれはテレビ番組用ということなのだろうか.


「禁煙は1ヶ月で成功する」という項では,ニコチンの影響でドーパミンを発生する部位が,禁煙を始めて1ヶ月程度で小さくなる,ということを説明している.1ヶ月というのはタンパク質合成に必要な時間で,すなわち脳の再編成の時間と考えてもよいとのこと.
というわけで,何かをするためには1ヶ月継続してみてはどーでしょう?


後半では,「性格は遺伝するのか?」という主題について解説している.著者曰く,遺伝によって決定される「気質」と環境によって影響される「性格」に分けられるという.詳しくはpp.173-174


本書で著者が言いたいのは「変えられる能力,変えられない能力を自分で見極め,自分の能力に合った振る舞いをしよう」ということではないか.
てんかん治療のために海馬を切り取られ,それ以降新しい記憶を得ることができなくなってしまったHM氏は,現在も普通に生活をしているそうである.もちろん一般の人々と比べれば大きなハンディキャップを背負っていることになるが,本人はあまり苦にしている様子はなく,「同じマンガを読んでも何度も同じところで笑えるのが良いところかな」と答えたという(池谷裕二氏の講義より).
HM氏は,自分が新しい記憶をすることができないことを知っている(記憶しているわけではないからややこしい.常に新しく知るのだろうけれど).我々もHM氏のように自分の能力を見極め,それに見合った生き方をすることが重要なのではないだろうか.
こう表現すると「身の丈に合った生き方をしろ」と聞こえてしまう.私が考えるに,いわゆる社会で活躍するのに,遺伝的な能力は少なくとも直接は影響しないのではないだろうか.むしろ,環境で得られるコミュニケーション能力やその他の能力の方が効いてくる気がする.