プロ技術者になる!エンジニアの勉強法

プロ技術者になる エンジニアの勉強法

プロ技術者になる エンジニアの勉強法

(2012-08-17読了)

夏休みの読書第三弾.エンジニアコーナーにあったので買ってしまった.著者はNEC半導体バイスの研究開発と生産に携わっていた.こちらも企業の研究開発に携わっている人間らしいことが書かれていて,何度もうなづいて読んでいたが,エンジニアの「勉強法」についてはあまり書かれていなかったりする.

それっぽいところとしてエンジニアらしい4つの能力を紹介している (pp.131-132)

  1. 技術に明るい
  2. 技術を市場性や戦略性を含めた,より広い視野や高い観点から捉えられる
  3. 技術の「不易」の部分を身に着けている
  4. 技術に関し,経験や洞察力に裏付けられた直感的な勘が働く

松尾芭蕉の不易流行という言葉を引用し,技術も俳句と同様に不易と流行の部分があると述べている (p.69).
少し前は余裕があったので,部署で輪読会などを開催し,不易の部分を鍛える機会が多かったが,お金を生み出す技術が出てくると,どうしても表面的な部分に集中しがちなため,技術の不易の部分を鍛える機会が少なくなるという.


本筋とは違うけれど,印象に強く残った点として「数学で日々の仕事とは異なるアタマを使う」(pp.106-111) の部分.

肝心な点は、エンジニアの生活とは「逆」のことをすることです。
つまり、エンジニアの日常業務では、「現実的・複雑・個別的」な事柄を解決しなければならないのに対し、それとは対照的な「理想的・シンプル・普遍的」なものの考え方や思考法を実践することによって、頭のバランスを取ることこそ、頭をよりフレキシブルに保つ上で有効だということです。私にとっては、数学が有効な遊び道具なのです。
(p.110)

まさにこれ.会社に勤めて5年目になるが,徐々に会社のやり方を把握するようになって,思考もだんだんとそれに合わせているような気がする.昨年,業務の内容が研究を離れたものに一年携わっていたが,たった一年離れただけでものすごいブランクを感じ,未だに戻っていない感覚がある.おそらくそれは能力の問題ではなく,ここに書いてあるような頭の使い方の問題だったのだろうと思っている.今後は気を付けていきたい.

なお,著者も書いてあるとおり,歳を取って頭が昔ほど柔軟になっていないものの,数学書を読むとはっきりと理解できることが多いという.個人的もこれは同意.

いろんな理由があると思うが,自分は技術者は抽象的なアイディアや技術を具体的な表現で社内文書や発明原稿に記述したり,メンバーや上司に説明するため,抽象的な世界を具体的な世界にマッピングする能力が鍛えられているのが一番の理由だと考えている.


話を変えて本書で著者はエンジニアは公共財産であるという非常に面白い考え方を紹介していた.もともとそのことについて触れていたのは著者ではないそうだが,その部分を引用する.

エンジニアの社会的価値という点に関して、ある新聞社関係の人が書いていた強く印象に残る記事を思い出します。おおよそ、次のような内容でした。
「技術立国を目指す我が国においては、エンジニア、とくに国立大学出身者のエンジニアは、一企業のものというより、『公共の財産』と捉えるべきである。とくに先端技術分野において、大企業は、有名大学の理学部や工学部の優秀な学生を多数採用しており、いわば価値の高い公共財を預かっているようなもの、と考えなければならない。
したがって自分の企業で採用したからといって、会社の都合でエンジニアに然るべき仕事をさせなかったり、浪費して能力を潰したり、さらには経営的問題により有能なエンジニアの職を奪うなど、本来許されないことである。
採用したエンジニアには、能力に見合う十分な仕事をしてもらい、その成果を社会に還元させなければならない。その点で優秀なエンジニアを大量に採用する大企業は、社会的責任と社会的道義心を持たなければならない」
(pp.117-118)

なるほど,この自分は技術者だからとても同感するけれど,そうじゃない人のために別の職種についても同じようなことが言えると思う.近年は終身雇用も破たんし,就社ではなく就職の時代といわれるようになってきたけれど,社会全体で人を育てていくという雰囲気になればと願っている.