下町ロケット
- 作者: 池井戸潤
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/11/24
- メディア: ハードカバー
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(2011-10-09読了)
会社の先輩が絶賛していたので読んでみた.今年の直木賞受賞作らしい.すんなり読めて,すっきりする読み心地の良い作品だった.著者の作品は初めて読むのだけれど,なんだか読んだことなる文章だなぁ,と思ったけれど思い出せない.内容ほとんど覚えていないけれど重松清のビタミンFとか,伊坂幸太郎の砂漠という印象.直木賞作家には通ずるものがあるのかなぁ.内容はネタバレになるので,できるだけ省略.
小説でもときどき特許関連の話題が出てくることはあるものの,まさか小説の中で優先権出願(*)という言葉を目にするとは思わなかった.
(*)優先権出願とは,出願してから1年以内の発明について「ごめん,こういう記載をすればもっと広い範囲で発明の効果が主張できることがわかったら追記するわ.あ,出願日はそのままでお願い」という後出し出願のこと.あくまで優先権の主張のため,内容によっては却下されることもある.
文脈的には神谷弁護士が「全ての特許の見直しをしましょう」という言い方をしているので,神谷弁護士の指示によって見直した結果,優先権出願したものがピンポイントでヒットしたのかと思うけれど,時期的にこれは神谷弁護士が指示したものではないような気がする.(本文には明記されていない気がする)
また,あくまで優先権出願は基本発明に付随するものなので,帝王工業側の部下が「抜け道はありません」と言い切っていることから,別に優先権出願があろうとなかろうと同じだったのではないかと思ったりもする.
ナカシマ工業にステラが特許侵害の訴訟を起こした際に
まず相談すべきは,ステラ関連の特許出願をした際にお世話になった弁理士事務所に相談すべきではないのだろうか.まさか,会社が直接出願したわけじゃあるまいに,と思って読んでいた.ただ,後々神谷弁護士に「おたくの特許は書き方が悪い」と言われ,やっぱり特許取得はしていたんだ,とほっとしたと同時に,まず弁理士さんに相談しろよ,と思ってしまった.途中で弁理士という単語は出てくるものの,実際に弁理士事務所や弁理士が登場しなかったのが残念.まぁすべては弁理士資格も持っているスーパーマンの神谷弁護士様様です.そして,神谷弁護士を紹介してくれた元妻感謝.
というわけで本書は神谷弁護士すごいの一言.
さて,本筋とは関係なく印象に残った文があったので抜粋.
「設計図通りに試作するには、機械よりも手でやったほうが融通が利くんでね。もちろん全部というわけではないが、できるところは手作業でやってる。手作業だと機械でやるのと比べて、考えるヒントが生まれる。たとえば、途中まで穴を開けたところで、やっぱりここよりもあっちに開けたほうがいいんじゃにかとか、組み上げる前に設計のマズイところがわかったりもする。作ってからうまく作動しないことも、手作業のほうがかえって少ない。結果的に試作工程の効率を上げることになるわけだ」
(p.207)
これを読んでこれはコンピュータサイエンスも同じではないかと感じた.
何かの手法を応用する場合にも,既に多くのアルゴリズムの実装が公開されているが,自分で設計図 (元論文のアルゴルリズム) にしたがってコードを書いてみると,驚くほど発見することが多い.今まで気にしてこなかった数値誤差や乱数アルゴリズムが問題になったり,ここの実装はこうした方がもっと速くなるのではないか,ここを変えたら精度が上がるのではないか,ということが気になる.
最終的な正確さを求めるのであれあ,実績のある実装を使うのが一番かもしれないが,研究開発に必要不可欠な手法に対するノウハウの蓄積,新しいアイディアの発見,という意味で「手作業」は大切だと思っている.このセンテンスはとても心に響いた.
さて本書ではたびたび「熟練工の技術」という言葉が出てくるのだけれど,この言葉を見るたびに以前読んだ「インクス流!」を思い出す.インクス流! 自体はブログを始める前に読んだ本なので,読書メモはないのだけれど,別の個所に書いてあったので抜粋
以前読んだ「インクス流!」では,いかに職人の技術をコンピュータのデータに吸い出すか,ということをストーリー仕立てで紹介されている.それこそがインクスの提供する金型の短期納期を可能にしている.しかし,自分が数十年かけて身につけた技術を機械が実行するのを目の当たりにした老職人は,ショックのあまり次の日から会社に来なくなり,電話したところ「もう私は必要ないじゃないか」といわれたというくだりが今でも頭に残っている.大学3年生の「品質管理」のレポートを書く際に本書を読んだので,3年前のことだが,今でも忘れられない.
(http://d.hatena.ne.jp/sleepy_yoshi/20070907/p2)
結果的に熟練工の技術を再現することは可能かもしれないが,熟練工が作業途中に感じること,ひらめくことの再現はまだまだ不可能だと感じている.熟練工の技術は再現不可能,という言い方でなくとも,手作業は欠かせないものだと思う.
なお,インクス流! はこちら.出版がちょっと古いので,同じような内容でup-to-dateな本があるかと思う.
- 作者: 山田真次郎
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2003/08
- メディア: 単行本
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