ウェブ炎上

ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性 (ちくま新書)

ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性 (ちくま新書)

(2007-11-11読了)


キーワードは「サイバーカスケード」,サイバー空間で起こる情報カスケードのこと.ただ,一点忘れてはならないのが,ウェブ上では基本的に全ての情報がアクセス可能であるということと,ウェブ上のいちリソースが,現実世界におけるいち個人と対応していないということ.
言い直せば,自作自演でサイバーカスケードが起こせるということ,現実世界の情報カスケードはもう少し条件が厳しいように思える.


本書では,実際のケースを紹介して,それらに対して考察を加えているので読みやすい.
キーワードは「可視化」と「つながり」だそうだが,よくわからなかった.が,著者はいろんなことを勉強して書いてあるので,また読み直してしっかり理解したい.

メディアはそのあり方によって、人間の欲望自体を欲望させるというようなことを生じさせます。
(p.25)

この言葉は,本書で後述される「ドラえもんの道具を持て余すのび太」というくだりでよく表現されている.


今のウェブは著者の言う「疑わしきはバッシング」という言葉がぴったり当てはまっている気がする.道徳,倫理という大義名分を盾に「サイバー魔女狩り」が行われている.


ローレンス・レッシグの行動を規定する4つの要素「規範」「法律」「アーキテクチャ(コード?)」「市場」においては,アーキテクチャによって縛ることもできるし,法によって縛ることもできる,というけれど,裁判所で法の解釈によって云々しているのを見ているとサイバー世界では法は使えんなぁ,と思うし,アーキテクチャを中途半端にいじろうとしたところで,高い技術力を持ったハッカーさんたちをいたずらに挑発するだけのような気がする.少なくとも,ウェブ全体のアーキテクチャを変更するのはもはや不可能なのは自明なので.
ちなみに現代ではこのアーキテクチャの影響力を持ちつつあり,東浩紀はこれを「環境管理型権力」と呼んでいるらしい.
じゃあ,どないする?という話になったときに,最後の望みは「規範」ということになるような気がする.まさしく古きよきNiftyServeですな.
ちなみにレッシグのモデルは聞いたことがあったけれど,結城浩氏がでレッシグのCODEについてわかりやすい解説していた.


著者の萩原チキ氏は,自分とたった2歳しか変わらないのに驚き.よく勉強しているナァと感心してしまいました.ただ,気になったのは他人の理論や持論を借りてきているのはいいのですが,「自論」を前面に押し出していないのが気になった.流し読みというか,自分の読み方が悪いせいなのだけれど,「で,結局なんなのさ?」と思ったし,「サイバーカスケードという現象の存在と影響力の大きさ」を論じているに留まっているような気がした.


批判的なコメントになってしまったけれど,本としての完成度は高い.よいサーベイブックだと思います.

memo

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