すべて僕に任せてください

すべて僕に任せてください―東工大モーレツ天才助教授の悲劇

すべて僕に任せてください―東工大モーレツ天才助教授の悲劇

(2011-03-14読了)

タイトルから察するに,ドタバタコメディ風に書かれた大学教授の随筆なのかなぁと思ったらとんでもなかった.若くして亡くなった天才,故・白川浩氏と著者である今野浩氏の出会いから別れまでの実話.実名をバンバン出てきてこれはすごいと思った.

企業で会社員をやっている自分とは程遠い,大学ならではの話を知れてとても新鮮だった.自分は東工大出身ではないけれど,出身学科の分野が近いこともあり,何人か知っている名前が出てきて驚いた.特に白川氏の師匠の森雅夫教授は大学時代に講義を受けたことがあり,よく覚えている.本書でも書かれているようにとても人柄の良い教授という印象が強い.(森先生が担当する数理計画の講義でSVMに関する論文を紹介したら,発表がよかったとほめられ,ご褒美に256MBのUSBメモリを貰ったことを今でもよく覚えている.当時256MBはそこそこ大きい容量だったので,とてもうれしかった.)

本書を読んで感じたことは,自分が疎いだけかもしれないけれど,学科始まって以来の大天才とか,10年にひとりの大秀才だとか,自分が学生のときにはそういう観点を持ったことがなかった.本人にとってはそんな肩書きは仰々しいかもしれないけれど,こういう肩書にあこがれるのは自分だけだろうか.

さて,研究者となると「xxといえばsleepy_yoshi」と言われるように,何かしら自分の得意分野,できれば自分にしかできない能力が求められる.さて,自分は何の人になれるのだろうか,ということもふと考えさせられる一冊.

非常にテンポのよい文体で読み物として非常に面白い.研究者としても一流ながら,著者の文才も素晴らしいと感じた.