ボナンザVS勝負脳―最強将棋ソフトは人間を超えるか

(2007-09-26読了)

研究室に謎に置いてあった新書.論文修正の合間に手にとったら修正そっちのけで読んでしまった...
将棋ソフト「ボナンザ」の作者,保木邦仁とボナンザと対局したプロ棋士渡辺明による著書.
驚いたが,渡辺明氏はなんと自分のひとつ年下だった.老いを感じる...


本書では,お決まりディープブルーの話.ディープブルーのビデオをLISPの授業で見たせいか,ディープブルーがLISPで記述されていると思っていたけれど,どうやらプログラムはCで書かれたみたい.勘違い.


取った駒を再配置できるというルールがあるため,チェスに比べて探索空間が桁違いに大きい将棋では,未だプロ棋士を破るプログラムは開発されていない.
本書では,保木氏がカナダにいた頃に「趣味」で始めたディープブルーと同様の幅優先探索に基づく将棋プログラム「ボナンザ」の開発史,対戦相手の渡辺氏の対戦準備,対戦中の話


幅優先探索に基づくプログラムの中に「知性」を垣間見られるということから,いずれ十分に強くなった将棋プログラムを人間の棋士を育成するために利用できるのではないか,と考えている.
実際,完全にコンピュータの方が強くなってしまったオセロやバックギャモンでは勿論,完全にコンピュータが強いわけではないチェスにおいても,プロのチェスプレイヤーが人間同士の対戦をコンピュータに分析させながら観戦することがあるらしい.
これについては以下の引用文から,体系化されていない理論をそれなりに自動構築する将棋ソフトと戦うことで,経験的に強くなるのではないか,という渡辺氏の考えが伺える.

私の目には、スポーツの世界でトッププレイヤーにもコーチがついていることがむしろ不思議に思える。松井秀喜タイガー・ウッズ、そうした人が、技術的にいま勝負すれば自分のほうが圧倒できる人たちにコーチングを受ける、そのこと自体が理解しづらい。
これは将棋の理論が体系化されていないからで、コンピュータを強くすることが難しいことにも通じているのかもしれない。
(p.142)

スポーツ選手は身体を動かすので,それを鳥瞰的に眺めることができるコーチが必要なのではないか.おそらく,将棋や囲碁などのゲームでは,鳥瞰的に見て得られるアドバイスよりも本人のメンタルな部分に拠るところが大きいために不要なだけだと思う.
別に将棋にコーチやスタッフがいてもいいと思うのだけれど


しかし,とりあえず学習させて,そこになんらかの概念や体系が現れるのではないか,という考え方はなんだか計算機屋さんの大好きな考え方のような気がする.ちょうど今日雑談で出てきたElmanさんによるSRNの中間層に品詞カテゴリーが形成される,という研究を思い出した.


技術的な話では,春楽器に勉強会で読んだ石畑本の最後にゲーム木の探索について書かれていたので復習になった.本書では2,3頁でミニマックス法,alpha-beta法について理解できる.図入りでわかりやすかった.