とてつもない日本

とてつもない日本 (新潮新書)

とてつもない日本 (新潮新書)

(2007-09-07読了)

どこで聞いたのか忘れてしまったけれど,オタク政治家として名高い麻生さんが面白いタイトルの本を書いていると巷でウワサになっていたので早速読んでみた.

感想は「美しい国」よりも言いたいことがわかりやすい,とてもわかりやすい本だった.


日本の底力としてサブカルチャーを挙げているところが新しく,面白い.ジダントッティがサッカーを始めた理由としてインタビュアーに「キャプテン翼だ」と答えたらしい.


アジアの国々では「ジャパニメーション(=アニメーション)」「J-POP」「Jファッション」が流行になっており,このスリーJでアジアは席巻されている.と2003年8月号のTIME誌アジア版に"JAPAN RULES OK!"というタイトルで特集が組まれたという.


このように本書ではまず,日本人自身が一番日本を「ダメ」だと思いこんでいると注意し,日本の底力がそんなものではない,と続けている.


ニート問題については,言いたいことがよくわからなかったが,高齢化問題や高齢労働者については強くそう思う.歳を取っても健康だから寿命が伸びたんじゃないか,と.

ここでは述べられていないが,いわゆる「職人的技術」が失われつつある問題についても述べると更に良かった.以前読んだ「インクス流!」では,いかに職人の技術をコンピュータのデータに吸い出すか,ということをストーリー仕立てで紹介されている.それこそがインクスの提供する金型の短期納期を可能にしている.しかし,自分が数十年かけて身につけた技術を機械が実行するのを目の当たりにした老職人は,ショックのあまり次の日から会社に来なくなり,電話したところ「もう私は必要ないじゃないか」といわれたというくだりが今でも頭に残っている.大学3年生の「品質管理」のレポートを書く際に本書を読んだので,3年前のことだが,今でも忘れられない.

インクス流では,エキスパートシステムが生み出す問題については触れていない.職人がいなくなれば,誰が後輩に伝えることができるのだろう?私は職人から技術を吸い出す技術を使うためには,職人に技術を与える技術が不可欠だと考えている.


気になったのは,「日本はもっと自信を持ってリーダーシップを取る」というような脱日本(勝手に命名,本書では使われていないのであしからず)という方向性は,今までの日本が培ってきた「日本の底力」を失う可能性をも秘めている,ということ.


麻生さんは本書の最後に大風呂敷を広げすぎかと思われるかもしれないが,と注意書きをした上で自身のビジョンを語っている.総理大臣であっても大臣であっても自分ひとりでは何もできない,結局は多くの役人たちがいてはじめて国を動かすことができる.東大出身ばかりの役人たちに口先だけの論理が通じるとは思わない.政治家に重要なのは,頭のよい役人たちを納得させ,彼らを動かすだけのビジョンとカリスマ性なのではないかな,と感じた.


だらだらと書いてしまったが,本書で気になった言葉は「鎖の強さは一番弱いつなぎ目で決まる」という英語の諺.後で調べておこうっと.