池谷裕二氏の特別講義

大学にて,池谷先生(以降ガヤ様)の講義がありました.
履修していないけれど潜伏.
時間にルーズな私ですが,前の授業が終わった瞬間に教室に入って最前列を確保.


周りの反応を見る限り,先週の様子からは信じられないくらいの大入りだったみたい.
ガヤ様はT大以外では講義,講演を全て断っているらしく,今回は非常に貴重な経験だったらしい.


講義の内容は,記憶と海馬に関する話.

神経細胞の美しさを語る際にフラクタル図形の例を挙げて,龍安寺の石庭に隠されたフラクタルについて紹介してくれた.
かなりこじつけにも思えるけれど,Natureに掲載された論文になっているから驚き.


話の導入がとてもうまい.師匠がおっしゃるU字型の話し方.
しかも具体的な例を挙げてくれるから,わかりやすい.
マジックナンバー7のところでアニメキャラが出てきたのはびびった.


ヘッケルの反復説をタルビングの記憶階層モデルに絡めた話には驚いた.
幼児期健忘と呼ばれる,幼児期における記憶が残らない理由は,
エピソード記憶を記憶できるようになるのが,ちょうど幼稚園に入る頃だから.
エピソード記憶が出来るまでは,より原始的な記憶方法をするため,
大人からすれば異常なほど"正確"に記憶する,という.


今日の話の要点,ここで再確認.
"正確"に記憶するということは,汎化できないということ.
原始的な生物ほど"正確"に記憶する



海馬の役割の話で海馬を切除されてしまった故に,新しい記憶をすることができなくなったH.M.さんの話が出てきた.
切除されてから50年以上経った今でも彼はまだ元気にしているらしく,数多くの研究者がインタビューするらしい.
ガヤ様も何回か会ったことがあるらしく,
大変ではないですか,という質問をしたところ,こう言われたらしい.


「同じ漫画を読んでも何回も笑えるから悪いことばかりではないよ.」


かっこよすぎる・・・.


話は佳境を迎え,海馬自体の話が始まる
これは覚えておけ,という名称をめもめも

  • 海馬体
    • 歯状回
    • CA3野
    • CA1野


特にこのCA3野の面白いところは,神経細胞がCA3野に含まれる神経錐体に結合しているということ.
要するに再帰回路(recurrent circuit)になっているということ


こいつが壊れると記憶を汎化的に利用できなくなるという.
モリスの水迷路の課題では,ネズミは何かしらの目印を参考にしてゴールの位置を確認するが,
CA3野を壊されると,目印が少しでも変わるだけでゴールがわからなくなるらしい.


ここで前半で出てきたモズの話とリンクする.
要するにより"原始的"な記憶しかできなくなるらしい.


具体的にシナプス結合が強くなるとはどういうことか,AMPA受容体とNMDA受容体のふたつがあり,受容体の数が増える(感受性が強くなる)ことで,結合が強くなる,ということを説明してもらったあたりでタイムオーバー.



専門的な話までは踏み込まなかったものの,プレゼンのうまさに驚き.
「最後まで飽きることない」プレゼンは久しぶり.時間が終わるのが本当に惜しかった.


神経細胞がこの世でもっとも美しいものだとか,水迷路で必死に泳ぐネズミがかわいいとか,
ちょっとMADな一面も見せてくれましたが,とても和やかな印象を受ける方でした.



よい思い出になりました.