相加平均≧相乗平均≧調和平均の証明 with Jensenの不等式

先日のブログ記事

F値 (E値) の計算に調和平均を利用した.その際,

相加平均 ≧ 相乗平均 ≧ 調和平均

という関係があることを紹介した.この関係は,いろんな方法で証明することができるらしいけれど,みんな大好きJensenの不等式で証明してみる.

なお,Jensenの読み方には,

  • イェンゼン
  • イェンセン
  • ジェンセン

など色々あり,僕はイェンセンと読んでいる.なお,Wikipediaではイェンゼンの模様.


相加平均,相乗平均,調和平均は,n個の要素x_iが与えられた際には,以下のように記述できる.

  • 相加平均: \frac{1}{n} \sum_i x_i
  • 相乗平均: \left( \prod_i x_i \right)^{1/n}
  • 調和平均: \frac{n}{\sum_i \frac{1}{x_i}}

さてみんな大好きJensenの不等式は,凸関数f(x)について以下の不等式が成り立つというもの.

f( \sum_i \lambda_i x_i ) \le \sum_i \lambda_i f(x_i)
ただし,\lambda_i \ge 0 \forall i かつ \sum_i \lambda_i = 1

なお,このような\lambda_iによる線形結合を凸結合と呼ぶらしい.
図に描くと直感的にわかりやすい.二次関数y=x^2における弦と弧の例が直感的に理解しやすい.

任意の2点aとb (図の例ではa=-1, b=1.5)が与えられたときのf(\lambda a + (1 - \lambda) b)は弧の上に存在し,\lambda f(a) + (1 - \lambda) f(b)は弦の上に存在する.

弧ab上の任意の点≧弦ab上の任意の点
(等号が成り立つのは点a,または点b)

ということより,凸関数の二点の凸結合についてはJensenの不等式が成り立つことがなんとなく理解できる.

正確な証明はしない (できない) けれど,任意の点に拡張するためには3点の凸結合 = 2点の凸結合ともう1点の凸結合というように数学的帰納法で証明できると思う.


さて,このJensenの不等式を利用して計算してみる.

相加平均 vs. 相乗平均

まず相加平均と相乗平均の不等式から.

\frac{1}{n} \sum_i x_i \ge \left( \prod_i x_i \right)^{1/n}

両辺の対数を取り,両辺にマイナスをかける (不等号反転)

 - \log \left( \frac{1}{n} \sum_i x_i \right) \le - \frac{1}{n} \sum_i \log x_i

さて,ここでlogは凹関数なので,- logは凸関数.なんとかJensenの不等式の形にできればよい.マイナスを内側に入れてあげると,

 - \log \left( \frac{1}{n} \sum_i x_i \right) \le \sum_i \frac{1}{n} \left(- \log x_i \right) ... (1)

となる.f(x) = - \log x\lambda_i = \frac{1}{n} \forall i なので,Jensenの不等式より(1)が成り立つ.(証明おしまい)

相乗平均 vs. 調和平均

続いて相乗平均 vs. 調和平均.

\left( \prod_i x_i \right)^{1/n} \ge \frac{n}{\sum_i \frac{1}{x_i}}

こちらは逆数を取るような式変形を行うと,先ほどと同じような形になる.

\left( \prod_i \frac{1}{x_i} \right)^{- 1/n} \ge \left( \frac{1}{n} \sum_i \frac{1}{x_i} \right)^{-1}

あとは両辺の対数を取る.今度はマイナスはかけないので符号はそのまま.

- \frac{1}{n} \sum_i \log \frac{1}{x_i} \ge - \log \left( \frac{1}{n} \sum_i \frac{1}{x_i} \right)

あとは,さきほどと同じく

\sum_i \frac{1}{n} \left( - \log \frac{1}{x_i} \right) \ge - \log \left( \frac{1}{n} \sum_i \frac{1}{x_i} \right)

と変形すると,-logが凸関数という性質を用いて同様にJensenの不等式で導くことができる.(証明おしまい)


余談だけれどJensenの不等式は意外に歴史が浅いみたい.Jensenの不等式の生みの親であるヨハン・イェンゼン (1859-1925) によって証明されたのは1906年らしいので,まだ105年程度しか経っていないことになる.また,応用数学においては非常に重要な役割を果たすのだけれど,日本の数学教育において軽視されているというような記述[1]も見かける.