aとtheの底力 -- 冠詞で見えるネイティブスピーカーの世界
- 作者: 津守光太
- 出版社/メーカー: プレイス
- 発売日: 2008/12/01
- メディア: 単行本
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(2011-03-12読了)
英語を書くことがある職業であり,きっと今後も英語を書くことが続くだろうし,そりゃ書けた方が良い.その割には英語の勉強らしい勉強をしてこなかったので,意を決して一番わからない冠詞の使い方の勉強をしようと本書を手に取ってみた.
結論から言えば素晴らしい一冊.今までもやもやしていた雲が取り払われたかのような (大げさ?) 感覚を覚えたくらい勉強になった.解説も非常にわかりやすかった.
本書から学んだことを全てメモしていくと膨大な量になるので (書いてみたら既に膨大な量になってしまった..) 強く印象に残った部分を列挙していく.
モノ,カタチ,リンカク
本書の説明で使われている言葉.
- モノ
- 冠詞をつける名詞が表現するもの.本や車のような具体的な物や,愛や幸せのような抽象世界にあるもの全てをモノとする.
- カタチ
- モノの中で,数えられるもの.いわゆる可算名詞.waterやloveはカタチがない
- リンカク
- カタチのあるものは,一筆書きのリンカクを描くことができる.車に後ろから光を当てると車のリンカクが浮かび上がる.このようなリンカクを描くことができるかどうかがa/anをつける基準となる.一筆書きと言ったのは,複数存在する場合にはリンカクが描けないという意味.
冠詞の有無の重要性
まず,aかtheかという比較ではなく,
a vs. the vs. 無冠詞 (ゼロ冠詞)
と考えること.どの冠詞をつけるのか,無冠詞なのかによって読者の印象は大きく変わるという意識づけをすることが大切.
日本人がやってしまう間違いとして,
I had a chicken.
I had chicken.
の例が挙げられている.前者は「私はニワトリを一匹食べた」というもの,後者は「私は鶏肉を食べた」という意味になる.もし,鶏肉を1ピース食べたという意味で使いたいのであれば "I had a piece of chicken." と表現する.
カタチ,リンカクの説明で述べたように "a chicken" と言ってしまうと,カタチが存在するニワトリのリンカクを映し出してしまう.料理は基本的にwaterと同様にカタチがないもの (とされている) ので,調理されたものを表すためにはchickenを使う.
「theは他のモノと区別・峻別を表す。だから、話をしている人 (話者) 同士が了解しているモノにはtheをつける」
(p.32)
という話者同士の了解という表現がとても印象に残った.これを読めば,適当にtheをつけてしまった名詞に対して「ちょ,ちょっと待って,それなんのxx,誰のxx??」というようなツッコミを貰っても納得ができる.
対置のthe
「ライオンは百獣の王だ」という意味の英文を考えると,以下の3つの表現方法を思いつく.
The lion is the king of beasts.
A lion is the king of beasts.
Lions are the king of beasts.
(p.49)
冠詞にtheを用いることによって,他の種類のモノと対置する意味合いをつけることができるため,「(他の動物ではない)ライオンこそが百獣の王なのだ」という意味を持たせるのであれば "The lion is the king of beasts." という表現をするが一般的であると書かれている.
たとえば,「狩りの後にライオンは2週間ほど寝る」ということを伝えたいときには,
A lion sleeps two weeks after a hunt.
と表現すれば,あるライオンはそうする,というニュアンスで伝えることができる.
さて,これを読んで今までもやもやしていた
another
other
the other
the others
の違いを理解することができた.
まず,anotherはan otherなので,その他 (other) の中からひとつ.つまり残りがいくつかあるものの中からひとつというニュアンス.otherは,特に残りがいくつかある状況においていくつかという意味.the otherは,the なので,残りひとつしかない状況におけるもうひとつという意味.the othersも同様に,残り全てという意味.
切り取るthe
Research is hard work, but like any challenging job well done, both the process and the results bring immense personal satisfaction.
(p.160)
ここの "the process" と "the results" というのは,一単語目のresearchのprocessであり,researchのresultsである.このようにtheには名詞の一部を「切り取る」働きもあることがわかる.今までtheとthatやthisは等価に交換可能だと思っていたけれど,このような場合には this process や this results とは表現できないことがわかる.(これについてはp.160にも書いてある)
怒ったアキコ
さて,ひとつしかない意味を表すtheであるが,形容詞を付けるとtheではなくaになることがある.たとえば
the moon
a full moon
のような場合,満月は毎月あるため,その中のひとつという意味でa full moonとなるようだ.なるほど.
同様に固有名詞であっても,怒った状態の人は,
an angry Akiko
と表現するみたい.これはなかなか日本人には想像できない表現方法.
同様に固有名詞にa/anをつける例として,「アインシュタインのような人」という意味で
an Einstein
と表現することがある.
ゼロ冠詞の使い方
ゼロ冠詞 (無冠詞) を使うのは、「相手にはどの本かわかっていない、相手との了解が成立していない (=不定) 」場面で、かつ、後ろにくるのは、aを付けない (リンカクをもたない) 名詞の場合
(p.71)
単語 (名詞) にaを付けて可算名詞として使うのか、不可算名詞としてaを付けずに使うのかは、必ずしも、その単語の中に本来的に備わっている性質ではありません。
(p.72)
と書いてあるように,先述のa chickenとchickenの違い,democracy (民主主義) とa democracy (民主主義国) のように,aの有無が重要な違いになってくる.
形容詞や動詞にはゼロ冠詞
形容詞や動詞にも冠詞を付けない.たとえば
organization (組織すること)
action (行動すること)
love (愛すること)
には冠詞をつけない.ただし,組織という意味でのorganizationにはaをつけるし,恋人という意味でのloveにはaをつける.ここでもaの有無によって,意味合いが変わってくることがわかる.
I go to school.
I go to a school.
前者のschoolは勉強するという動詞を表しているので,学校に通う (= 私は学生である) というような意味になり,後者は「私はある学校に (勉強以外の目的で) 行く」という意味になるため,聞いた人間は「なんで?」や「どんな学校?」というような気持ちになる.
プラブレム イズ ボスデスの英訳
以前の読書記録で書いた「プラブレム イズ ボスデス」を自分なりに正しく英訳してみよう.今の自分だったらおそらく,
The problem is the boss.
と書く.まずThe problemというのは,「他でもないproblemが」というニュアンスを持つ.bossのtheは,the boss (of everything) という意味でつけている.肩書という意味でつけるのであれば,無冠詞にするだろうし,「問題こそが大切なんだ」というニュアンスを持たせるためにはこう書くのがよいだろうと思っている.(本当に正しいかどうかはわからない)
本書を読んだおかげでこういうことを気にすることができるようになった.今までも英語に触れることはあったので,もっと早く意識するようにしていれば,英語教師とかに効けたのかもしれない.まぁ,後悔先立たずなのでこれから意識するようにしよう.
まとめ
本書を読むまで,典型的な日本人である自分はつけるべき冠詞がaかtheかということが文法的に決定されるものだと思っていた.それは誤りであり,話者がどのような気持ちでその名詞を伝えようとしているのか,という「観点」が冠詞に含まれているということを知ることができたのが一番の収穫だったと思う.
そのおかげか,本書を読み終わって以降,英語を読み書きする際には冠詞を意識するようになった.単語を辞書引きするときも単純に可算,非可算ではなく,リンカクを持っているかどうかというイメージで引くようになった.
たとえば,最近気になったところだと "purpose" が可算というのがあまり理解できない.これも企画書や申込書のようなものな「リンカク」のある媒体を想像できるようになると,よりネイティブに近い思考ができるようになるのかもしれない.
本書をきっかけに正しく冠詞が使える日本人になりたい.
また,書くだけでなく,「正しく読む」ためにも冠詞を正しく理解しておく必要があると思う.そういう意味で本書は英語を学ぶ人全員に強くお薦めしたい一冊.
Further reading:「日本人の英語」「続・日本人の英語」
なお,冠詞の使い方を含んだ名著として有名なマーク・ピーターセンの「日本人の英語」があるが,以前読んだときはどうもしっくりこなかった.本書を読んだ後に読むと,以前すんなり理解できなかったところが「そういうことだったのね!」という気分で読めるようになっていた.もし,「日本人の英語」に挫折したことがある,どうもしっくりこなかったことがある人がいれば,できれば本書を読んだ後に読むとさらに良いと感じた.
- 作者: マーク・ピーターセン
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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メモ
theの使い方まとめ
- 前に出てきたものを指すthe
- 後ろの表現によって限定されるthe
- 状況によって限定されるthe
- 後ろの名詞によって決まるthe
aの使い方まとめ
- 「ある」
- 「どれでも」(any)
- 「同じ (same)」
- a + 「固有名詞」